column 2017.5.8
 
Rトピックス

金沢R不動産のこれまでと、これから。

小津誠一(金沢R不動産+studio KOZ./E.N.N.)
 

金沢R不動産は開始して10年が経ちました。これまでを振り返りつつ、これからへの思いを語ります。

僕らが物件の仲介からリノベーションまでを手がけるとき、決まって物件に掛ける「素敵なコトが起きそうです」の幕。

金沢R不動産が、リニューアルする。東京R不動産に続いて2007年にスタートした2つ目のR不動産として、10年が経ったこのタイミングなのだから感慨深い。

このところ尾張町〜橋場町のエリアが面白くなり始めている。シェアホテル「HATCHi」にてトークイベントを行う金沢R不動産代表・小津(写真中央)。

せっかくだから、10年というひとつの節目に、金沢R不動産のこれまでとこれからについて記しておきたい。まずは「これまで」について。

金沢で生まれ育った僕は、高校卒業と同時に金沢を出た。脱出したといった方が正しかったかもしれない。かつての地方に住む若者には共通していることだと思うけれど、人間関係や古い慣習が面倒で、東京を目指したのだ。

美術大学で建築を学び、バブル末期に建築家に師事、その後京都の大学で建築を教えながら独立・開業することになった。

金沢の象徴的な景色のひとつ「犀川」の土手でみんなでフットサル。

京都を経験したことで、自分の郷里・金沢の可能性について自覚し考え始めるようになった。

金沢も伝統と革新、両方の魅力を相乗的に発することができればもっと面白くなるかもしれない……。そんな思いを抱きながら京都で7年を過ごし再び東京へ戻ろうとしていた矢先の2001年、あるプロジェクトがきっかけで馬場正尊さんと知り合った。その後、建築家仲間というより、サッカー仲間として交流していたが、内心、馬場さんが始めた東京R不動産のアイデアに嫉妬していた。

盟友の東京R不動産・馬場正尊と。2016年に東京で行ったイベントの模様より。

ちょうど東京と金沢の二拠点生活が始まった頃でもある。東京では設計事務所を運営し、金沢ではイベントなどを手掛けるNPO v.i.v.aの一人として活動。また金沢では飲食店のオーナーにもなった。

そんな中で、どうやったら金沢というまちを変えられるのか考えていた僕は、ふと思い立ち馬場さんに電話する。「東京R不動産の地方版を始めてはどうか。それは大きな都市ではなくて地方の中核都市でやるべきだと思う。だから金沢で……」。振り返れば何を勝手に……という気もするが(苦笑)、そのときは情熱に任せて電話口で訴えたのを覚えている。

本来切り離すことのできない「建築」と「不動産」。お互いが幸せに連携して家づくりやまちづくりが出来ればどんなにいいだろう。そう思っていた。

2003年、金沢21世紀美術館のミュージアムカフェのコンペに企画を出したときのスケッチ。

2003年と2004年、NPO v.i.v.a.による中央公園イベント。金沢で夏祭りの再生を目指し開催。2年連続で数千人を動員した。

はじまりの2007年。

リノベーション前の廃墟(上)とリノベーション後のRENNbldg.(下)。1階にはE.N.N.が運営するアトリエキッチンa.k.aがあった。

2003年、後に金沢R不動産を運営することになるE.N.N.という小さな会社を立ち上げた。片町にある廃墟ビルをリノベーションしてそこで飲食店やバー/イベントスペースを運営し、さまざまな人が集まってくる拠点をつくった。2005年からは、まちの再発見や創造をテーマとしたシンポジウム「ALK(アート リンク カナザワ)」というイベントを連続開催。そして、2007年。念願かなって金沢R不動産がスタートした。

廃墟ビルを改装したRENNbldgにて、さまざまなイベントを行った。

果たして金沢でR不動産は受け入れられるだろうかという不安ももちろんあった。が、他の不動産屋が持て余してしまうような空き家や町家の仲介に成功したりして、金沢の街で受け入れられていく手応えを掴むのに時間は掛からなかった。個性的なお店のオーナーが金沢R不動産を指名してくれるようになったりと、嬉しいご縁ができていった。僕らは、金沢らしい町並みに潜む埋もれた物件や古い町家などを積極的に紹介した。

オープン当時の金沢R不動産。

また、町家や木造アパートのリノベーションの仕事も増えていった。たとえば新竪町商店街にある八百屋「松田久直商店」のリノベーション。僕らは自らも飲食店を運営している経験を活かして、ハードだけでない、ソフト面のサポートもさせていただくようになっていく。

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新しいけど、昔からの八百屋らしさがある八百屋へ

リノベーションした八百屋「松田久直商店」

誰も入居しなくなった木造アパートをリノベーションした「鞍月舎」。

アパートオーナーからご相談をいただいてリノベーションした「鞍月舎」のプロジェクトも印象深い仕事だった。一軒のリノベーションが街そのものの変化に発展していく、そんな実感があった。

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茨木町アパートリノベーション、進行中
その1 出会い編
その2 計画編
その3 工事編
その後 前編
その後 後編

2011年、手狭になった片町のRENNbldg.を離れて、新竪町商店街の空きビルへE.N.N.は移転した。商店街に路面店として不動産屋&設計事務所を構えるのは、まちに開かれた商店を持ったような感じがして新たな心地よさを覚えた。商店街の祭に参加したりして、街の人達と同じ空気を吸っている感じがするのも嬉しい。2012年には東京にオフィスがあった設計チームを金沢に呼び寄せ、いよいよ拠点としての金沢の位置づけが高まった。

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改めまして、ここが私たちの仕事場です。

新竪町商店街の入口にあるE.N.N.の拠点。

2014年、また新たなプロジェクトが始まった。全国各地のR不動産メンバーと立ち上げた新サイト「real local」だ。R不動産を運営していると地域における面白い人や、仕事やイベントの情報なども集まってくる。面白い空間には、面白い人や出来事が自然と結びつくからだ。そしてまたそれはその地域のユニークな暮らしの情報に他ならない。だからそんな地域情報を各地からダイレクトに発信して、結果、また面白い人が移住してきたり、住むエリアの選択肢が増えてくれたら良い。それが、このメディアを立ち上げたきっかけだった。今では「real local」は、全国10の地方が参加して共同運営するメディアに成長している。

関連記事:
『全国のR不動産』刊行&「real local」始まる。
real local金沢のご案内

real local金沢のトップページ。(画像をクリックするとサイトに飛びます)

エリアが面白くなっていく実感。商家として100年以上使われてきた金澤町家を複合型店舗にした「八百萬本舗(やおよろずほんぽ)」は弊社がリノベーションして、なおかつ店舗のオペレーションまでを任されている。その向かいに建つ、昨年2016年オープンのホテル「HATCHi」は、築50年のビルを改装して出来ているが、僕らが仲介をさせてもらった物件。2軒が同じ通りを挟んで建っているのには独特の感興がある。またここから歩いて約5分の場所には、町家をリノベーションしてつくった、僕らが運営を行っている「橋端家」という宿もある。

大型の町家をリノベーションした「八百萬本舗」はE.N.N.が企画運営している。

金沢R不動産が仲介したビルがリノベーションされてホテル「HATCHi」に。1階には「a.k.a.」が入居。

金沢R不動産と東京R不動産が共同運営している一棟貸し切り宿「橋端家(はしばや)」。

これから――街の変化への目線を大切に

これまで、僕たちは多くの町家や店舗、空き家や空きビルなどを仲介してきた。
同時に仲介した物件をリノベーションしたり、新たな店の開業のサポートをしたり、再生した空間を店にしたり、宿にしたり、その運営もしている。一軒の物件は、まちの中では、たった一つの点にすぎない。それでもその一つの点がともす灯りが、点々と連なり線に近づいていく。やがてその線は商店街やまちという面を照らし始める。まるで、螢の光がシンクロして光の群れとなっていくように。これからは、楽しい変化を求めてもっと確信的に点を打っていく活動をしていけたらいいと思う。

金沢というまちで暮らすことの楽しさを気づかせてくれた地図づくり「KANAZAWA TRIAL STAY MAP」。

2015年春の北陸新幹線の開通は、北陸や金沢に暮らす人にとっては計画から40年以上も待ち続けた大きなトピックだった。金沢21世紀美術館の開館から約10年というタイミングもちょうど良かったのかも知れない。周回遅れの金沢が新幹線というインフラで東京とつながったことで、観光需要が爆発的に飛躍することになる。ところが、それは同時にゆったりと美味しいモノを食べ、時間を掛けて文化を細工し、普段の暮らしや営みの受け皿だったまちが、一気に観光や消費の対象へと舵を切る諸刃の剣となるかもしれない。

戦災や災害にも遭わず400年以上もの時間をかけて、ゆっくりと変化してきた町並みが瞬く間に壊され、100年以上も手間を掛けて工夫して使いこなしてきた木造の町家が新建材に包まれた均一化した建物へと変わっていく。爆弾を投下する戦争に生き残った街が、経済という戦争の元で、激しい破壊に晒されているのかもしれない。

僕たちはいま、不動産の仲介という仕事や建物・まちのリノベーションを通して、早すぎる更新のスピードを遅らせたり、マイナーチェンジを積み重ねていくことが大切じゃないかと考え始めている。R不動産という活動は、小さくても影響力ある目利きの目線を持ち、すでにあるまちの物語を編集していくことだと思う。その目線は、「何か違うんじゃないか?」とか「選択肢、たったこれだけ?」という異議申し立てだったり、「こんな格好悪いのは嫌だ!」という強い否定のモチベーションに支えられていたと思う。僕たちは、そんな否定の彼方にしかない肯定を探して、どこまでもポジティブに、物語を添えながら物件を紹介してきた。

金沢R不動産の開業から10年を経たいま、あらためて「ノン(否)!」という気持ちを持ちながら、自分たちのまちを編集していきたい。

金沢R不動産のメンバーと共に。

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