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column 2009.12.9
 
Rトピックス
新しいけど、昔からの八百屋らしさがある八百屋へ
小津誠一(金沢R不動産+studio KOZ./E.N.N.)
 

今回は、金沢R不動産を運営する有限会社E.N.N.の建築・デザインチーム/studio KOZがリノベーションのお手伝いをした、町家リノベーション事例をご紹介します。

2009年4月にオープンした「八百屋 松田久直商店」。この八百屋さん、昨年までは新竪町商店街の中程に佇む「フルーツ&ワイン ウエダ」として営業していました。

長らくこの店を支えてきた上田さんからお店を引き継いだのは、ウエダの従業員だった松田久直さん。「これからの商店街に相応しい八百屋として、心機一転、店を新しくしたい!」松田さんの決意から、このリノベーション計画が生まれました。

日本全国で見ることができる看板建築でもあった旧姿。

始まりは、昨年夏になります。

パリのバザールや朝市にあるようなノスタルジックな八百屋、ニューヨークやミラノにあるような最先端の食材ショップなど、自ら歩いて撮りためた写真、雑誌のスクラップ、アイデアメモなどが詰まった「極秘・松田ノート」を見せてもうことから構想は始まりました。

さらに、能登の農家がつくる野菜や金沢のレストラン情報まで、美味しいものについては生産の現場から消費の現場まで、貴重な情報を集める松田さんの思いを聞きながら、リノベーションの計画は進んでいきました。

一方で、具体的な計画を始めるにあたり、建物の個性や経歴、商店街での建ち具合などを調べていくことになります。
昭和10年代前半に建てられた町家に洋風の看板ファサードが仮面の様にくっつく看板建築。昭和のある時期にハイカラな店構えを目指して部分改装されたこのスタイルは、日本全国の商店街で見かけることができます。

この八百屋さんがある新竪町商店街の大きな2つの特徴は、雑貨店や骨董店、カフェやギャラリーやインテリアショップなど、通りの佇まいを意識した個性的なお店が集まっていること。それら個性のあるショップの間には、日用品店や食料品店が通りの素地として控えていることです。その素地となる商店の多くが仮面を被った状態になっているけれど、この普段使いの商店が変わることで、商店街はますます豊かな表情を持つように思えました。

個性的なお店が集まってきている新竪町商店街。

店内へと入っていくと、1階の店舗部分は必要なはずの柱が取り除かれ、その影響で2階の床は傾き、土壁にはひび割れが。懐かしい型硝子の木製窓からはヒューヒューとすきま風。列をなす蛍光灯に一様に照らされた店内や色褪せた看板を見ると、時代を経て一定の役割を終えた感も否めません。

隅々まで明るい蛍光灯群と、段ボールと展示什器に埋め尽くされた旧店内。

まずは、その仮面の内側の素顔を確かめてみることに。そこには、黒っぽい漆喰壁に銅板細工の施された軒など、とても雰囲気のある顔が隠れていました。周囲にも似た表情の建物も残っている。これは、すっぴん顔の方が良いだろうと仮面を剥がしていくことになりました。

更に天井を剥がし、床の畳をどけると十分に堅牢な梁もある。当初から商店町家として建てられたので一階の天井も十分に高く、顔だけでなく全てを生まれたままの姿に戻すことにしました。

あるべき柱を追加して補強すると、床の歪みも矯正されてすきま風も収まります。行儀正しく背筋の伸びた立ち姿になったのが一目瞭然。こういったメンテナンスができる柔らかさと粘りがあることも、古い木造建築の魅力なんだと実感できます。

八百屋といえば、何を思い浮かべるか?

店づくりはそのシンボルを決めることから始まりました。新しいけど、昔からの八百屋らしさがある八百屋。その「八百屋らしさ」とは、色とりどりの野菜が並べられる大きな平台にあるのではないか? とイメージが生まれてきます。そこで、店の奥から軒先まで水平に貫く床の様な大きな平台を隠れたシンボルとして据え付けることに。普段は野菜に隠れてしまう存在でもあるけど、そのたった一枚の平台が八百屋らしさにつながるのだと思いました。

蓮根を持った松田さんを入れたイメージ図も作成。

店頭に突き出した平台。頭上の暖簾は老舗の暖簾屋に誂えてもらった。

そして今……松田ノートのアイデアを生かしたディスプレイも加わり、野菜の立体感や彩りが映える美味しい八百屋へと生まれ変わりました。

ざる、桶、木箱、枡などを利用したディスプレイのアイデアは尽きない。

夕食のひとしなのためにエプロン姿のまま気軽に駆け込める、近所の台所として重宝されてきた八百屋さん。そんな昔のままの普通の佇まいは、商店街にとっても、とても良い存在に感じられます。

ご近所さんの夕食の相談に乗る松田さん。

さらに、ガイドブックを片手にもった観光客が足を止めご近所さんに混ざって店内に入っていく姿をみると、この新竪町商店街の魅力を写しているように感じられます。新しさと懐かしさが同居するまち。センスのいいセレクトショップもありながら、八百屋もあって人が生活している空気がちゃんと残っているところ。そんな空気が、この商店街の魅力になっているのだと思います。

今回のリノベーションに参加できたことは、僕たちにとってもとてもよい経験になりました。まちを見回してみると、同じような看板建築となった空き店舗があちこちに眠っています。看板に覆われて一見分かりづらい物件の魅力。それらがリノベーションされて、まちの新陳代謝がうまく進むとすると、金沢の魅力はまだまだ深まっていくんだろうと思います。

■八百屋「松田久直商店」

住所:金沢市新竪町3-104
電話:076-231-5675
営業時間:8:00〜18:00
定休日:日曜、祝日
P:1台

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