column 2016.11.21
 
real local

“ギラギラした移住”のススメ

 

DMM.com 亀山敬司会長インタビュー

年年商1,700億円以上を売り上げるモンスター企業「DMMグループ」。アダルト動画、ゲーム、オンライン英会話、FX事業、太陽光発電に至るまで、一見して無秩序に見えるまで多角的にビジネスを展開し、最近では「DMM.make」として、最先端テクノロジーを駆使したものづくり支援にも取り組んでいる。チームラボと組んだインタラクティブ・インスタレーション「DMM.PLANETS」が今夏大きな反響を呼んだことも記憶に新しい。

その始まりは、石川県加賀市の一軒のレンタルビデオショップだった。そして現在も県内に5つの事業所を構えている。

今回は創業者であり、一代で会社をここまで築き上げた現会長・亀山敬司氏に、reallocalでは異色のインタビューを敢行。普段はビジネスについての取材が多い氏に、地方に今思うこと、そして移住についての考えをうかがってきた。

東京・恵比寿ガーデンプレイスタワー21階に入る(株)DMM.com本社会長室にて。

―まず、石川に拠点を置き続ける理由から。そこに特別な思い入れはあるのでしょうか。

「よく聞かれるんだけど、石川じゃなきゃいけない理由はないです(笑)。もともと石川で育った会社だし、そこで育った社員もその家族もいるしね。結局、場所はあんまり関係なくて、やっぱり人なんです。他のエリアも同様で、アイツがいるから事業所を構える、というだけです」

メディアに一切顔を出さず、謎に包まれていた亀山氏。ジーンズ姿で現れたご本人は拍子抜けするほどカジュアルにインタビューに応じてくださったが、こちらの質問に「きれいな答え」は決して返って来ない。多岐に渡るビジネス展開についても「別に何でもいいんです。エロの後は、ゴロがいいから今度はエコやろうか、くらいの感じ。(笑)」この捉えどころのなさが、大義名分では通じないマーケットを生き抜く秘訣なのだろうか。

亀山敬司氏/1961年、石川県加賀市生まれ。DMM.com 取締役会長。メディア取材では一切顔を出さないことでも知られる。

—昨今の地方移住の流れをどう見ていらっしゃいますか。

「本当はみんな東京を離れて地方に帰ったらいいとは思っています。家庭を持って、子育てにも良いし、東京は地価もどんどん上がってるしね。特にITは正直どこでも同じ仕事ができるし、そこから世界相手の仕事もできる。そういうメリットをもっと上手く利用してくれたら良いんだけれど。本来、東京だろうが石川だろうが、つくるものが一緒なら同じ給料をもらう資格があるんだし。そしたら石川で豪邸に住めるけどな」

—「DMM」という社名は「デジタル・メディア・マート」という意味でしたね。情報やメディアを扱う分野において、地方でのデメリットは。

「まぁどうしても石川だと、移住してきた後にのんびりしちゃうのは正直あるね(笑)。石川だろうと東京だろうと、職場入ったら密度高くやって欲しい。仕事が終ればさ、いい空気吸いながら広い所でのんびりしてくれたらいいんだから」

インタビューに訪れた金沢R不動産代表・小津と亀山氏の後姿。

—生き馬の目を抜くデジタルマーケットの最前線に身を置く氏が、今の地方創生の流れについて思うこととは。

「うーん、『皆でこの土地をなんとか活性化させよう!』というのも良いけど、お金がないと始まらないし、中でお金を回し合っても仕方ないよね。例えば地元の書店で本を買いましょう、と言ったって、みんなもうAmazonで買ってる。そしたらアメリカで課金されるわけで、東京すら飛び越えて、お金が海外に流れ出ている状態。

いくら住みよさランキング何位と言ったって、仕事がなければ出て行くしかない。まずは仕事とお金を持って来ないと。そういう意味では福岡あたりは、いろんなことやってるよね。第2の東京になってやる、くらいの気概がある。いつまでも土地が安いとか、人件費や物価が安いとこだけを強みにしてたらもう未来がない。中国みたいに、安くこき使われて終っちゃうよ」

ドライな言葉とは裏腹に、DMMグループが石川へもたらしているベネフィットは大きい。県内の従業員数を年々増やしており、これは外から仕事とお金を持って来ていることとイコールだ。話題の「ふるさと納税」では納税額に対する半額ものDMMポイントを発行し、1週間で数千万円もの加賀市への納税を叩き出した。論より証拠。愛よりお金、である。

—「DMM.make AKIBA」のような、ものづくりを支援するファブスペースに5億円を投じていらっしゃいます。どんな意図が。

秋葉原駅より徒歩2分の距離にある、ものづくりベース「DMM.make AKIBA」。会員制で、誰でも気軽に利用できる。
本物の機材でプロトタイピングを可能にする「DMM.make AKIBA Studio」。企業顔負けの最先端機材が揃う。

「こういう事は、本来なら公共事業でやって欲しいところだけど、やらないからうちでやっているだけ。正直単体だと赤字です。ただ、僕らはボランティアじゃないから数年でビジネスにまで持っていかなきゃいけない。まだまだかかるとは思うけど、すでにいろんなビジネスのスタートアップがDMM.make AKIBAから生まれている。続けていれば、そのうちiPhoneみたいなヒット商品も出るかなと。ライブハウスやってたら吉田拓郎がデビューした!みたいな。(笑)」

—金沢の工芸界隈でも、テクノロジーを駆使したものづくりに興味を持っている人は多い。今後どのような可能性がありますか。

「例えばDMM.make KANAZAWAがあったっていい。そこにクリエイティブなやつらが集まって、東京からも良い人材がやってくる。そこに場が出来て初めて『石川で事業を進めていこうか』って話になるんじゃないかな。シリコンバレーだって、田舎だよ。それを政策として後押ししているかいないかの違いだけ。だからこそ地方自治体には、10年も20年も先を見て投資してほしい」

「年寄りにできることは予算切るくらいだよ。IT業は特にね。俺ももうギリギリ。(笑)」

—最後に、DMM.comラボ金沢事業所でも、現在UIJターン者をはじめ、IT関連のデザイナー・エンジニアを募集していらっしゃいます。(求人記事はこちら)どんな人材に来て欲しいですか?

「のどかなところで暮らしたい、という方よりも『俺たちは東京・大阪でなくても、世界相手に仕事できるんだ』というギラギラした方に来ていただきたいですね。そういう意味でいうと、東京のエンジニアはやっぱりレベルが高い。なんでかって単純で、やる気のあるヤツは東京に出て来てるから。やる気があるというより、野心系かな(笑)。ほとんどが地方出身者なのにね。だから、これからは東京でのモチベーションそのままに、地方に移住できたら一番良いんだよ」

善意に基づくストーリーが求められがちな地方創生において、亀山氏のインタビューは、実に痛快かつ明瞭だった。インタビュー中に繰り返しでてきた言葉「お金がないと始まらないわけだから」。今地方に足りていないのはこの“ギラギラ感”なのかも知れない。

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