2023.1.25 |
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金沢・観光まちづくりフォーラム 「歴史都市・金沢の文化観光とは」開催レポート
2022年12月10日(土)に金沢商工会議所にて「金沢・観光まちづくりフォーラム/歴史都市・金沢の文化観光とは」が開催されました。本フォーラムは、「歴史的資源を活用した観光まちづくり事業」の一環として採択されたもの。官民連携での歴史的資源を活用した観光まちづくりのあり方や、金沢におけるエリアマネジメント組織の必要性や意義などについて、市民が一体となって考える土壌醸成を目的としています。こちらではフォーラム当日の様子をレポートいたします。
フォーラムの会場となった金沢商工会議所
観光庁の遠藤翼さん
当日、会場はまちづくりや観光事業へ関心を寄せる参加者でほぼ満席になりました。冒頭挨拶は今回のフォーラムを共催している観光庁観光地域振興部観光資源課文化・歴史資源活用推進室の遠藤さんから、現在観光庁が推進している「歴史的資源を活用した観光まちづくり事業」のこれまでの取組と成果や、事業内容について説明がなされ、「歴史的資源を活用した、トップ オブ トップの取り組みを」と金沢への期待が語られました。
丸谷耕太 氏/東京工業大学大学院社会理工学研究科社会理工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。立教大学観光学部観光学科助教などを経て現職,金沢大学融合研究域融合科学系准教授。著書に『Design for Democracy(共著)』など。専門はコミュニティ・デザイン。伝統工芸、自然資源、観光をキーワードに都市デザインに関する研究およびまちづくりの実践を行う。
まずは今回のフォーラムの話題提供となる2名の基調講演から。トップバッターは金沢大学融合学域観光デザイン学類准教授・丸谷耕太さんです。丸谷さんはまちづくりやコミュニティ、工芸といったアプローチから観光について研究されています。
冒頭で文化観光の定義に触れた上で、マスツーリズムの弊害やオルタナティブツーリズムにいたるまでの観光の変遷をおさらい。「観光によってその地域の文化が変わってしまう。それは本当に正しいのだろうか?という反省か,、観光によって地域が “より良くなる”ためのサイクルをどう作るかが考えられるようになってきた」と丸谷さん。その上で「観光客と住民の関係性」や「観光に対する肯定感の醸成」の必要性を指摘。観光を非日常のものとして切り分けて考えるのではなく、市民も日常的に観光資源に触れられてその恩恵を享受できることが大切だと話します。
そしてイギリスのナショナル・トラスト運動やSDGツーリズムを例に、あくまでも観光は「自然」や「文化」といった土台の上に成立しているものであると強調。その上で観光資源としてのまちづくりを考え資産の歴史的価値・建築的価値・使用価値を市民が認識し、その活用と保全に取り組んでいくことが必要だと提起されました。
小津誠一 氏/1966年金沢市生まれ。武蔵野美術大学造形建築学科卒業。東京の設計事務所勤務後、京都の大学で建築教育に携わる。1998年京都にて「studioKOZ.」を設立し、2003年金沢にて「(有)E.N.N.」を設立。2006年に初の地方版R不動産となる「金沢R不動産」をスタート。2012年から金沢を本拠点として建築、不動産、空間運営の領域を横断しながら活動している。金沢工業大学非常勤講師。観光まちづくりフォーラム実行委員会。
二人目の基調講演は、今回のフォーラムの実行委員会代表でもある小津誠一(有限会社E.N.N./金沢R不動産)からのプレゼンテーション。自身が「建築/不動産/商業施設」の事業者である立場からまちづくりに関わる中で感じる課題や、コロナ禍で顕になった従来型の金沢観光の問題点を指摘。「歴史的資源の棄損」や「消費型観光への偏重」、「観光による売上の県外流出」、そして「空間資源の非連続性」や「民間主導のまちづくり組織の不在」などが課題として挙げられました。
その上で金沢に現存する歴史的資源の具体例を参照しながら、その面的活用の可能性と実現のために必要な組織体制の必要性を強調しました。
後半はパネルディスカッションです。「今日のフォーラムの目標としては、何か一つの目標を求めるというよりも、様々な論点を導き出した上で、この先実際につながる議論に進んで行けたら」とコーディネーター を務める内田奈芳美さん(埼玉大学人文社会科学研究科 教授) 。「実に多様な形で地域に価値を提供している実践者の方々に本日ご登壇いただいています。金沢でどう応用できるかはもちろん、みんなで共有できる『ストーリー』や『価値』がどこにあるのかということも学んでいけたらと考えています」。
ディスカッションに移る前に、まずは今回招かれた5名のパネリストの自己紹介プレゼンテーションから。
内田奈芳美 氏/2006年、早稲田大学大学院博士課程修了。博士(工学)。金沢工業大学環境・建築学部講師などを経て、現職。主な著書に『金沢らしさとは何か』(2015年、北國新聞社、共著)『都市はなぜ魂を失ったか』(2013年、講談社、翻訳)など。アーバンデザインセンター大宮副センター長。2021~2022年、ワシントン大学・ラトガーズ大学客員研究員
村木智裕 氏/(株)Intheory代表取締役。/1998年広島県庁入庁。財政課や県議会事務局など地方自治の実務を経験。2013年からせとうちDMO設立を担当。2020.3までCMO(2018.3広島県退職)。現在、自治体やDMO、観光連盟、温泉組合等の運営・マーケティングを支援する株式会社Intheoryとインバウンドマーケティング、DXシステムを提供する合同会社Tourism Exchange Japan の代表。一橋大学MBA非常勤講師。
瀬戸内エリアのDMO(観光の専門組織)立ち上げなど、自治体組織として観光マーケティングに携わってきた村木さん。現在はその経験を生かし、アドバイザーとして日本各地の地域マーケティングに携わり、一橋大学では「ディスティネーションマーケティング」の分野の講師として人材の育成にも取り組んでおられます。(この日はリモートでの参加)
「デスティネーション・マーケティング」とは、「目的地」を商品として捉え、顧客をその目的地に引き込み、地域や企業が経済効果を上げることを目指して行われるマーケティング手法。
「まずは金沢の価値が旅行者に伝わる状況を作ること」、つまり「需要の創造」が重要だと冒頭で村木さんは語ります。「すると、サービスという形でビジネスが生まれる(関連産業の成長)、そこで生まれた新たな価値、さらに金沢の価値を高めることになる。良い循環が起きるわけです」。ここが目指すべき観光地マーケティングとしての理想形だとした上で、「では金沢の価値とは?」。これが正しく定義されておらず、正しく伝えられていない場合、誤った開発がなされ、金沢の価値が棄損されると村木さんは指摘します。
「観光における世界の潮流としては『多くの旅行者が訪れることによって、地域本来の歴史や自然・文化遺産が失われることのないようコントロールする』 『旅行者にも旅先を守る責任がある』という啓発が進んでいます。翻って日本、そして金沢はどうでしょうか?地域自らが地域の価値・財産を失うようなことはしていないか。その責任の所在がどこにあるか明確か。成熟が進む旅行者に応えらえる街になろうとしているか…これらへの回答がYESでなければ、いずれ人は来なくなります。まちづくりとマーケティングというのは不可分なんだという認識が私たちには必要です。そしてこれらを総合的に進める体制が金沢にあるか、今回のフォーラムではこのことについて考えられたらと思います」
島田昭彦 氏/(株)クリップ代表取締役/1964年京都市生まれ。立教大学卒業後、文藝春秋 スポーツ総合誌「ナンバー」編集部に10年間従事。オリンピック、サッカーW杯、MLBなど、イチロー、中田英寿らと世界を転戦取材。2005年株式会社クリップ設立。ヒト、コト、モノをコラボレーション、文化・観光・まちづくり企画開発・収益事業プロデュース。
「まちおこしは民間だけでもできない、地域の人だけでもできない、行政だけでもできない。それらを“融合する力”が大切です」と島田さん。島田さんは地域活性化プロデューサーとして、京都市を中心に官民が連携した“稼げるビジネス”の立ち上げに携わっておられます。
「京都もただネームバリューがあるからお客様が多い、という訳ではありません。『ここでしかできないこと』をちゃんと伝える。これがすごく大切で、作る力『1』に対して伝える力は『5』なんだと、私はいつも言っています」。
そして京都市に寄贈された祇園白川の飲食店跡地を、現代版質屋「PASS THE BATON」として復活させた事例の紹介。「観光地というよりも、地域の人も使える場であることが重要」と島田さん。その他にも「伊右衛門サロン」や「CHANNEL×六角堂」(池坊)など、伝統とモダンを掛け合わせた事例なども紹介されました。「私たちは常に先進事例にチャンレンジしています。攻めすぎるくらいが丁度良い。行政の方も『ここまでやっていいのだろうか?』と思うくらいが丁度いいんです」と、行政側も激励されていました。
長谷川隆三 氏/全国エリアマネジメントネットワーク事務局次長/1999年東北芸術工科大学大学院修了、株)エックス都市研究所に入社、都市計画、都市政策を専門とし、環境まちづくり、エリアマネジメント等の業務に従事。2014年に(株)フロントヤードを設立し、札幌都心や東京の大丸有地区のエリアマネジメントに関する戦略づくりに係わると共に、エリアマネジメント組織のネットワークである全国エリアマネジメントネットワークの事務局も務める
ここ10年ほどでよく耳にするようになった、まちづくりの分野でキーワード「エリアマネジメント」。長谷川さんは「全国エリアマネジメントネットワーク」において事務局次長を務め、まちづくりのコンサルタントとして活躍されています。
「エリアマネジメントとはまちのつなぎ役・お世話役である」と長谷川さん。その定義のキーワードとして「一定の範囲を対象とする」「民間主導」「継続的な取り組み(つくるだけでなく育てる)」「地域の関係者の信頼関係構築(互酬性)」などが挙げられました。「地域のブランドは一企業、一個人で作っていけるようなものではありません。だからこそ中間的な存在であるエリアマネジメント組織が、ブランド形成の役割を担っていく必要がある。そうすることで、人や企業がそのエリアに関心を持つようになり、新しい投資や経済活動が生まれてきます」。
最後に長谷川さんが「今日伝えたいこと」として強調したのは「大義と魂胆」。「なぜやらなければいけないのか、と同時に、ビジネスとして成立していないと持続可能性はない。ここをどう擦り合わせていくか、まさにそこがエリアマネジメントの仕事と言えるのではないでしょうか」。
「大義と魂胆」に続いてもう一点、「暮らす・働く・観光」がもっともっと溶け合っていくことの必要性。「そのことでエリア全体の価値が高まっていくのではないか」と長谷川さん。
藤原岳史 氏/(株)NOTE代表取締役/IT企業勤務を経てシナジーマーケティングに入社し上場メンバーとして寄与。故郷の丹波篠山市にUターン後2010年に一般社団法人ノオトの理事就任、2016年に株式会社NOTEを設立し代表取締役に就任。古民家等の地域資源を活用した地域活性化事業である「NIPPONIA」事業を全国で展開している。著書『NIPPONIA 地域再生ビジネス』(プレジデント社)
ITベンチャーに入社し、上場メンバーとして活躍していた藤原さん。人口減少とともに、地域固有の暮らしや文化が失われていることに危機感を感じ、地元丹波篠山にUターンして株式会社NOTEを設立。現在その活動は全国31箇所に展開されています。
NOTEの主力事業である「NIPPONIA」は歴史的建築物の活用を起点としたエリア型空き家活用事業。「小学校区を一つの面として捉え、そこにレストランや宿泊施設を点在させ一つのホテルと見立て、お客さんには地域の住民のように振る舞ってもらっています」と藤原さん。
「私たちは『丹波篠山市』として戦っているのではなく、より小さな単位の集落がもつアイデンティで戦っています。それらを繋げた連合体が丹波篠山市という認識です」「都市型開発のように集約形の“大きな開発”をするわけではなく、歯抜けのように出てくる空き家や遊休不動産を“横で繋ぐ”。この時に重要なのが『面的開発』です。地域としてのビジョンを持つことで、分散していてもワンチームとして進んで行くことができます」
また、「まちづくり開発会社の設置と資金調達の手法」のポイントなど、プレーヤーならではの実践的な“コツ”をいくつも教示してくださいました。
日本全体の人口ピークから10年遅れで人口減少が始まっている金沢。「職人文化であったりものづくりであったり、人口に頼らない構造に転換することで、北陸全体を牽引していくような地域の立ち位置になっていけたら良いのではないか」
浅田久太 氏/(株)料亭「浅田屋」代表取締役/金沢市出身。金沢市料理業組合長ならびに金沢市旅館ホテル協同組合理事長。本業は料亭旅館・浅田屋の16代目社長で、国内外の富裕層をお迎えしている。年間10万人が訪れるステーキ六角堂などの外食事業も展開。金沢料亭とニューヨーク星付きレストランの料理人交換留学プログラム実行委員長も務める。
金沢の老舗料亭の16代目であり、金沢市料理業組合長ならびに金沢市旅館ホテル協同組合理事長も務める浅田さん。まさに金沢観光の実態を、肌で感じておられる経済人の一人です。その中で、「金沢における「本物」、そして「個性」とは何か。情報を“発信”するのと同等に、“整理”をする必要がある」と浅田さんは語ります。
「旅のルーツは『自分のまちでは解決できない問題が起こり、他の町の知恵を借りに行くこと』だとうかがいました 。そしてそのまちのライフスタイルに憧れることだと」。しかし、と浅田さん。金沢で散見されるレンタル着物姿の観光客を例に、金沢観光で生じている“行き違い”を指摘します。「彼らは金沢の街が好きになって、だから『着物を着たい』と思ってくれているわけです。けれど実際は、金沢市民はそんなペラペラした着物は着ていない。市民から見ると違和感があるけれど「本人たちは納得しているんだから、まあいいか」と見過ごしてきたわけです。しかし、その光景をさらに他の観光客が見れば、それが「金沢の本質」だと思われてしまっている」
また、日本の地方都市において「個性」を打ち出すことの難しさについても言及。「金沢はよく「茶道・和菓子・工芸」を特徴として挙げていますが、これは日本のどこに行ってもあるものです。加えて体験型観光としての“図工の時間”(=ワークショップ)。何か切り口がないと、日本のどこへ行っても金太郎飴のような切り取り方になっている現状があります」
そして、世界中を旅する浅田さんの視点からピックアップされた、各国の特徴的な観光政策なども紹介されました。
内田:ここからは私の方から、もうちょっと深く聞きたいというところをそれぞれにお伺いさせていただけたらと思います。まずは長谷川さんと藤原さんに伺いたいのですが、手段としてのスキームがあると思いますが、どうやって「面的に広がる組織の運営」が可能になるのか。実務として感じてらっしゃる部分をお話いただけたら。
長谷川:そうですね、エリアマネジメント組織においては「協議・合意形成」と「実践」、その微妙な仕分けが結構重要だと感じています。「協議」する組織は任意団体というか(行政、地権者など)、ある一定の範囲の人が利害の一致をさせて信頼関係を築いていくことが非常に重要です。そして「実践」の方は事業として、責任をもった人たちがやっていく。この構図を描くことが重要かなと思います。
藤原:私は、合意形成した後の「意思決定できる組織」も同時に作った方がいいかなと思っています。一般社団法人を作るのが大変だという場合は、自治体と民間が共同出資で組織を立ててしまう。「100%合意をとる」ということは不可能なので、意見を集約した後に「今回はこうしますね」という意思決定をする機関が必要かなと。
内田:資金という側面から見た「組織の実務性」という話と、既存のステイクホルダーの方々との関係の中で、どういうご苦労がありますか?
藤原:そうですね、最初は応援してくださるけど途中ではしごを外されたり、「アドバイス」という形で邪魔をされることもありますよね(笑)。ただ資金調達は重要です。地銀さんであったり、地域内外の方が「お金を出してもいいよ」とおっしゃってくださったとき、それを「寄付」といった形で終わらせずに「ちゃんと返す」方が良いと思っています。その方が事業に腰が入るし、投資家もお金を出しやすい。
長谷川:エリアマネジメント組織のお金の集め方の現状は、「イベントをします」ということに対しての「協賛」という形が多い。そうなると「組織の運営に共感して出す」というよりも、「イベント単体への寄付」という形になるので、どうしても“消え物”として終わってしまう。それがエリアマネジメント組織の今の実体です。もっとエージェント的に、ある一定の人たちが「エリアの価値を高めていくプロ」になって、エリア全体で価値を高めて、そこにいる事業者も住民もメリットを享受できるというような形を作らないと、なかなか難しいと感じています。
内田:今のお話と関連して、「面として地域の価値を高める」ということが「事業としての価値がある」ということを、どう伝えるかが大切になってくると思います。そこで「伝える力」の重要性をお話されていた島田さん、いかがでしょう?
島田:やはり「誰に伝えたいか」だと思います。その「価値をわかってくれる人に伝える戦略」を最初から考えて観光戦略をつくることが重要です。有象無象に来てもらうわけではなく、誰にどう伝え、その人たちがどこに行こうとするのか。観光公害には「分散」が有効だと言われていますので、集中させない。文化が好きな人は文化的な方へ、買い物が好きな人は買い物へー…その人たちが閲覧するであろうエリアに情報を届けていくという「発信戦略」は私たちも非常に考えますし、そのトレーニングができていないといけない。細密に分析していくことが、ショッピング・ツーリズムで終わらない文化観光につながるのではないでしょうか。
内田:今のお話を受けて、村木さんも「伝え方」についてご意見があれば。
村木:はい、まさにマーケティングそのものだと思います。地域資源の価値を練り上げて、それを生かしたプロダクトを地域で作っていく。問題はそこからで、「磨き上げた地域のプロダクトを理解してくれる旅行者/消費者を見極めていく」ということが重要です。
島田さんがおっしゃたように、地域には様々な魅力があり、いろんなターゲットがそこには出てくるわけです。これらの全体最適を図りながら、どう地域単位のマーケティングをしていくか。するとやはり「パブリックな視点をもった、マーケティングができる組織」の存在が重要になってくる。このような「極めて行政に近いポジションをとる組織」の活動の財源をどう確保するか、それが次の問題として出てきます。そこで、エリアマネジメントの負担金制度というのが日本国内にもあります。地域の皆さんから少しずつお金を集めて、それを地域全体のマーケティング組織の財源に変えていく。この方法論は、金沢においても考えてみて良いのではないでしょうか。
内田:ありがとうございます。パブリックマインドをもったエージェントの資金調達の難しさ。ともすれば補助金に頼りきりになる可能性もある中で、そのあたりは引き続き検討していきたいです。
そして「伝える力」を考えた時に、浅田さんがおしゃっていた「本物の価値」という議論があると思います。具体的にどう伝えるか、日々お客様と向き合う中でどう工夫してらっしゃるのか、アイデアやお考えがあれば。
浅田:金沢の市民性の良さは「消費する/使う」ところにあると僕は思っています。うちの両親は大樋焼の湯呑みに福光屋のお酒を入れてチンして飲むんですよ。「ひどい」というご意見もあると思うんですけど(笑)、工芸ってガラスケースに入れて飾っておくものではなくて「工芸は使うもの」だという認識が金沢にはあるんです。旅館でも、お食事でお出ししたお皿を見て「これが欲しい」とおっしゃる方がとても多い。「伝えよう」とするよりも、「実際に使って見せる・体験させる」というところがポイントではないかと思います。
内田:確かに、「sightseeing」という英語は「sight」も「seeing」も視覚ですよね。いかに今までの観光が視覚に頼っていたかということを改めて感じました。「使うもの」だと認識したうえで消費につなげるというのはすごく印象的です。ここで丸谷さんもご感想あれば。
丸谷:はい。一つ一つの事例がとても面白くて、もっと聞きたかったです。同時に「観光客/住民/私」といった「人」の話もあれば、「地域をどうするか」「東京・世界との関係」など、話のスケールが行ったり来たりするので、これをどう「まちづくり」としてまとめていくかというのはすごく難しいなと。けれど、もともと「観光」「まちづくり」ってそういうものだよなと改めて感じました。
思ったこととしては2つ。一つは「個性って大事」ということ。個々に活動していると、観光プログラムはどれも似てきてしまう。そういう意味でも「面的な観光」が必要で、個々の活動ではなくて、地域として取り組む。そういう思考方法が活動に結び付くと、結果として「地域の個性」が今後生まれるのではないかなと。
もう一つは組織の話ですよね。マネジメントとしてどう動くか、ステイクホルダーの間に立ってどう回していくか、「地域のための組織=つなぎ役」を今後どうしていくかは金沢にとって重要な課題だと思います。それがDMOなのかまちづくり会社なのかー…これらを考えながら、今後の観光まちづくりを考えられたらと。
小津:そうですね「固有性」の話。建築設計に携わる際には、常に「そこでしか建たないもの」をつくるつもりでやっています。なのでコンテクストの弱い「性格のない郊外の土地」を扱うことは難しい。同様に、地域の個性・固有性は「ストーリー性・歴史性など地域の文脈を探す」ということ。工芸・食など、日本中どこに行ってもある中で「金沢らしさって何だ」という難しいお題にぶつかっていくのかなと。もっと細分化すれば「橋場町らしさって何だ」ということになっていく。それがポピュリズム的に単純化されたものではなく「ここにしかない」というものを改めて探さないといけないと考えています。
ただ、建築設計や不動産という仕事は、依頼があって初めて成り立つ仕事なんですよね。いくら「まちづくりをやるぞ!」とこちらが騒いだところで、たった一つの建物の設計しかできないわけです。その中で面的な状況を作ろうと思うと、単独では難しい。そこで今回のような取り組みをしたり、推進法人やまちづくり会社のようなものをやっていかないといけないんだろうなと。今日の参加者の中で興味がある方いらっしゃれば是非ご一緒したい。行政も含め、協調しながらやっていかなければならないと考えています。
そしてここから会場から質疑と感想の時間に。市役所などの公共的な立場の方や、民間の事業者の方まで、様々な立場でまちづくりを考える方々からの質問やご意見が寄せられました。
参加者1:北陸新幹線が開業してから本当にたくさんの方が来て、オーバーツーリズムという課題も出てきました。ところがコロナで一度観光客がいなくなって、「観光ってどういうものなのか」「金沢はどういう街なのか」ということを自分達で一度見つめ直す機会が必要なのではないかと感じています。
そして次は新幹線が延伸し、金沢にとって「第二の開業」を迎えます。そこで金沢だけでたくさんの人に来てもらうというよりも「北陸」としてしっかりPRしていかなくてはいけないと感じています。これまでは「金沢」ってどういう街なのかを考えていましたが、これからは「北陸」とはどういうものなのか、勉強しなおしていきたいと感じました。
参加者2:様々な課題提起いただき、行政としても「わかっていてもなかなか行き届かない」という部分があるので、民間の方とうまく連携して相乗効果を高めて行けたらと改めて感じました。
そこで島田さんに伺いたいのが、京都市における活性化成功事例。「つくる部分」と「伝える部分」で行政側はどういう関わり方をされていたのでしょうか。
島田:行政に足りないのは「ビジネスマインド」だと私は思っています。行政職員だとしてもビジネスマンの発想で「誰にきて欲しいのか」「どういう使われ方をしたいのか」「どういう風に稼ぐのか」を考えないといけない。そういう人を庁舎内で増やしていくトレーニングが必要ですし、または、そういう発想をもつ人材を中途採用するというのも有効です。つまり「外の言葉を翻訳できる人」「行政の言葉を民間にうまく翻訳できる人」と共にコミュニケーションを図り、「儲ける街」をどうつくるのかということを重視してやっています。
あとは、京都市にホテルを作る場合は、京都に子会社を建ててもらって、法人税なり「お金を京都市に落としてもらう」ことを条件にプロポーザルを提出してもらったりもしてます。私たちもまだまだ途中だと思っていて、もっと新しいやり方・イノベーションにチャレンジしていきたいですね。
参加者3:今回皆さんが課題にされていたような「危機感」は私たちも常日頃感じているところです。やはり行政だけでは出来ないところを、民間の活力を取り入れながらやっていけたらと。そういった中で、地域課題を解決していくためには、もう少し高所に立った組織づくりに取り組んでいかないといけないと感じています。そこで藤原さんに教えていただきたいのは、丹波篠山の事例。重伝建など、すでに地元で頑張っている人の中に事業者として上手く入っていくポイントがあれば教えていただきたい。
藤原:僕たちは「最初のコミュニティ単位で説明する」ということを大切にしています。大きなエリアではなく、自治会や校区などもっと細かい単位ですね。その地域によって課題も異なるので、各地域の皆さんの声を聞きながら合意形成をして進めていく。すると「一回は聞き入れてくれている」という関係性ができてきます。むしろ僕らより、島田さんの京都の方が大変だと思うのですが(笑)。
島田:僕もそこはいつも苦労してます(笑)。けどやっぱり参加者を儲けさせてあげないと。「稼げるビジネス」をやってもらって行政にお金が入ってくる、そのための仕組みづくりが大切です。行政もそれを理解して、お互い相手の立場に立って「どういうところに落としどころがあるか、三方良しにできるか」ということを常に考えています。
藤原:「地域に還元する」というところでいうと、いくつか事例が。文化財など「住民の財産」を事業で活用させていただく場合、売上の一部を地域のために回すというケースもあります。例えば大洲でやってるところは1泊100万円なんですけど、そのうち40万が地域の維持費に回るようになっています。そうなってくると、住民の事業者に対する目も「自分達の代わりに税金を払ってくれている人」と肯定的になっていく。行政と一緒にやることによって、民間も観光で地域に還元できるのではないかなと思います。
内田:まだまだ会場からお聞きしたかったのですが、時間の関係でそろそろ閉めなくてはならず。最後にみなさんから一言だけお願いできますか。
村木:はい。まちづくりにおいては「行政中心でイニシアティブをとって仕組みを作る」、そして「運営は民間が中心となってやる」、このコンビネーションが重要だと考えます。民間が動ける環境を行政の側が作る。それ以上のことを行政がやろうとすると、難しいことも出てきますから、そこは民間の人たちに頑張ってもらうと。それが金沢のまちでできれば、今日出た課題というのは少しずつ解消されていくのではないかなと感じています。
島田:私としては「仕組みを作って仕掛ける」、そしてその「伝え方」ですかね。そのやり方は千差万別・十人十色の方法があるわけで。色々とチャレンジしながら「金沢流のやり方」というのを確立していくのが大切だと思います。そして、最後はやっぱり「人」ですね。そういうことをドライブできる人を、一人でも多く増やしていけたら変わっていく気がしています。
長谷川:やっぱり役割分担の明確化なんじゃないかと思います。行政、民間、市民ーそれぞれの役割を明確化して、それぞれの「領分」でしっかりやっていくことが重要なのではないかと思っています。
藤原:登壇しておきながら、僕は皆さんの話をもっと聞いていたかったですね。また時間があったらゆっくりお話ししたいです。ありがとうございました。
浅田:3年ごとに世界がひっくり返るようなこの時代において必要なのは、「オーバーアナリズム(過剰分析/過剰計画)に捉われるな」ということなんじゃないかと思います。「Fail Faster/Learn Faster(早く失敗して早く学ぼう)」、そして次にやってくるものに備えようと。金沢ってもともと新しいもの好きな街だと思うので、早く失敗して学ぶことが大切かなと。
丸谷:「金沢のまちをどうしていくか」って結構難しいですし、「金沢らしさとは何なのか」という議論はまだまだ尽きないと思います。ただ、こうやって人が集まって、学んだりディスカッションする場はとても大事だなと感じました。皆さんのお話にもでてきた「プラットフォーム」というか、こういう場を金沢で何回も続けながら、今後の観光施策やまちづくりにつながる第一歩になればいいなと思っています。
小津:今回登壇者が決まってから、お一人ひとりと意見交換させていただいていたんですが、その時間が僕の中で最も充実していてとても楽しかった。限られた時間の中でどこまでお伝えできたかわかりませんが、今日で終わらせては絶対にならないと思っています。今回出てきた問題や課題を共有できる人同士でつながっていけたらと思いますし、再来年の新幹線延伸、そしてコロナ明けに向けてちゃんと準備できているようにしたいですよね。みなさん今日は本当にありがとうございました。