column 2007.2.6
 
Rトピックス

廃墟から街が変わる!?ムーブメントの拠点、RENN bldg.

小津誠一(金沢R不動産+studio KOZ./E.N.N.)
 

ツタからまる廃墟ビルをリノベーション。ビルの再生はもとより自分たちで「店づくり」までしてしまいました。

いよいよ始まった金沢R不動産。これから定期的に金沢R的な物件の利用方法やライフスタイルをご紹介していきます。

記念すべき金沢発のコラムの第1回は、片町のRENNビルストーリーです。

金沢市片町のRENNビルとは、金沢中心部の活性化活動を行うNPO「v.i.v.a.」と、建築設計や不動産事業などを行うE.N.N.の共同プロジェクトとしてリノベーションされた元廃墟ビルです。いま、このRENNビルには地下にNPO v.i.v.a.が企画運営するお惣菜バー「puddle」とマルチイベントスペース「social」が入居。1階にはE.N.N.が運営するオープンキッチンスタイルのレストラン「a.k.a.」があります。2階と3階の賃貸マンションフロアは、住宅やSOHOとして使われています。ちなみに金沢R不動産を運営する会社E.N.N.もこのビルに入居しています。

このプロジェクトのはじまりは、2003年の夏に遡ります。

NPO v.i.v.a.が夏の音楽イベントを成功させ、その余韻も冷めぬ頃、次に取りかかる中心部活性化事業として案内されたのが、今のRENNビルでした。

ツタに覆われて全貌がよく分からない……。

いつのまにやら映画館が無くなった香林坊映画街、そこの映画館が一棟づつ解体されるにつれて露わになる裏通りにそのビルは建っていました。風俗店やスナックなどの看板が沢山取り付けられた名も無き雑居ビルは放置され、隅々にまでツタが絡んだまさに廃墟ビルの様相を呈していました。

映画館が取り壊されることで、裏が表に転じる。そんな廃墟ビルの再生方法を考えるというお題が与えられることに。

どんな施設にするべき?

どうしたらオーナーに満足してもらえる?

いま、まちに必要なモノは?

そして、自分たちならこの場所に何が欲しいか?

はじめのうちは、そんな議論を重ねていました。それが、リノベーションだけでなく自分たちで「店づくり」までしてしまうという思わぬ方向へアイデアが飛躍していくことになるのでした。傍目では確かに飛躍ですが、当の本人達はリノベーションされる空間を自ら使い倒したい、空間だけでなく人があつまる場づくりを実践したいと、少ない時間とお金を投じることになっていくのです。ある者は仕事の傍ら、ある者は仕事を生かしながら、ある者は会社を辞めて……。

秋づく頃には、解体工事がスタート。人が中に入ることすら拒絶していた廃墟が、みるみるスッキリした裸の空間へと戻りつつありました。

ようやく外観があらわになった!

もとの内装はすべて撤去してスケルトン状態に。

そんな中、夜な夜なメンバーが集まって、ビル全体と店の業態開発、事業計画、商品開発、資金計画などなどをの話し合いを重ねました。作業は山積み、にもかかわらず企画会議が単なる酒盛りの会になってしまったり、考え方の違いから空中分解してしまいそうな険悪な夜もありました。それでも余分な贅肉を落としていく現場を体験するにつれて、結束力と計画は固まっていくのでした。

そうして、年も明け内装工事も始まる頃になると、様々な人が計画を聞きにきたり、現場を見に来たりと着実に噂が広まっていくことに。近所のおばさんは、「前は得体の知れないお店がいっぱい入ってたからねえ。ちょっと心配なのよ〜。今度はどうなるのかしら?」。ビル正面の洋食屋グリルオーツカのご主人は、「若い人たちが新しいことをやって、このあたりを盛り上げてくれるとは嬉しいねえ!ご飯、食べてくかい?」。なかには、サングラス+スーツの方達がやって来て、「外人パブをやったらいい。儲かるぞ〜」とか、「ちわー!ここでナイトクラブをやることになってるモンだから、見せてもらうよ〜」と乗り込んでくるお兄さん……などという招かれざる客人も。

これも建物の力なんでしょうか、そこに変貌していく空間があるだけで、周辺の人たちも何が始まるのかと興味津々。この頃になると、メンバーのみんなも、周囲のさまざまな期待や警戒を感じ始めることになります。

(左)地下1Fのイベントスペース「social」。(右)1Fのレストラン「a.k.a.」。

いっぽうで「お店づくり」の方はというと、家具や食器、調理用品選びなど沢山のモノ選び、収支計算やスタッフのリクルーティング、メニューづくりや仕入先回り、プレスリリース資料制作など裏方仕事をそれぞれが担当しながら進んでいきます。なかでも、オープニングパーティやイベント企画を考えたり、招待客のリストづくりは楽しい作業。わざわざ東京や大阪・京都から参加、出演していただけるスペシャルゲストが決まったときなどは、万歳三唱したものです。

ライブやダンスイベント、ファッションショーなど、さまざまなイベントが行われ、多くの若者たちが集う。

2004年7月3日、RENNビルにはオープニングイベントのスタートと同時に大勢の人々であふれていました。用意された食事を頬張る人、お酒を片手に踊る人、スペシャルゲストのDJに驚喜乱舞する人。これから毎日このビルを舞台に入居者が生活し、仕事をする。様々な人が訪れる。廃墟だったビルが生まれ変わった一日にみんなが酔いしれました。その日限りのイベントと違って、そこに虚脱感はない。まさにこの空間を使い倒していく日々のはじまりの一日となったのです。

こうしてオープンしたRENNビルは、その後もほぼ100%の入居率で運営されています。そして「連なり」から命名された名前通り、様々な人の繋がりが生まれ続けています。

puddleの壁面にはいつのまにやら奈良美智さんによる絵が描かれ、socialを訪れたアーティストがカウンターにサインを書き込む。 a.k.a.の初代店長はRENNビルを卒業し東京で活躍、また新たな食の職人が腕をふるっています。2階、3階のフロアでは、日々新しい事業やアイデアがうまれています。この春には、1階駐車場部分がファッションのセレクトショップ「kiti」として生まれ変わることになっています。

リノベーションとは、新しい価値を加わえながら再生すること。更にそれが続いていくことなんだと、教えられたように思います。

■RENN bldg.
石川県金沢市片町2-10-42

a.k.a.
地元石川の食材を使ったアレンジメニューを楽しめるオープンスタイルのレストラン。(2014年 金沢市橋場町3-18に移転しました)

puddle
さまざまな種類の小皿料理と、こだわりのワインやシェリー、シャンパンなどが楽しめるおそうざいバー。

social
金沢の様々な文化や産業、アート、音楽などのカルチャーをプロモートするマルチイベントスペース。

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