2017.9.7 |
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第2回 エリアを持続的に更新していくために
金沢の中心部に点在する遊休建築物をいかに活用できうるかを考え、またそれらを点として捉えるのではなく、商店街や街区といった面的なイメージで、地域の更新を行っていくことが重要では。そうした意識のもと開催された「金沢リノベーションまちづくりシンポジウム」(2017年4月8~9日)。前回に続き、レポートの第2回をお届けします。
今回は、シンポジウムに先駆けて行われた「まちあるきツアー」の、各パネリストによる感想のコメントからご紹介します。
今回のパネリストのうち、倉石さんは長野、岸本さんは京都、新田さんは尾道から来てくれていますが、それぞれリノベーションをキーにしたアクションによって、街が変わるきっかけをつくってきた3人です。
岸本:金沢には既に何度も来ているんですけど、今回一番衝撃を受けたのは兼六園から金沢美術工芸大学に向かう途中にある石引商店街でしたね。私が知っている金沢のイメージである、町家が並ぶ感じとはまったく違い、RC造の防火帯建築(*)がずっと続いていて。石引商店街は、かつて大学生が利用し賑わっていと伺いましたが、1階も今は空き店舗が多いようですね。あと、アーケードが目隠しになっているからか、2階以上の階層は“ないもの”になっているように感じました。ここも、もうちょっと使えるはずだし、もったいないなと。
*防火帯建築…戦後復興期に、都市の防火を目的に建てられた不燃建物。
馬場:確かに金沢は、町家に見るように木の質感のイメージが強いけれど、石引は防火帯建築が色っぽかったですね。この界隈にはRC造の荒々しい質感に合うコンテンツがきっとあるのだろうという印象。金沢R不動産で「防火帯建築特集」してみたらどうかな。
あと、24歳の男の子が、シェアハウスとギャラリーとカフェを合体させようとしていた構想が面白かったな。上の階が住居なんだけど、そこにはアーティストも住んでいて、1階のギャラリーを通らないと家に帰れないという。今までにない組み合わせを平然とやってのけている。
岸本:金沢の人たちはRCの建物、どういう意識で見ているんですかね? ちなみに京都の人は京町家に飽き始めているところがあるように感じています。
小津:おそらく、RC空間の活用イメージがあんまり持てていないんじゃないかと思うんです。金沢R不動産で仲介して、2016年にできたシェア型複合ホテル「HATCHi金沢」はわかりやすい事例になったかと思いますが、まだまだ金沢には荒々しくて力強いコンクリートの質感を持った建物のリノベーションの実例が少ない。だから多くの人は、再開発による新築のビルを見て「きれいになった」って喜んでいるんじゃないでしょうか。あくまで個人の感想ですけど。
新田:「HATCHi金沢」が出来たりして最近賑やかになっている尾張町・橋場町、この辺りはまた洋風建築が金沢の中でも多いエリアでもありますよね。僕は個人的に洋風建築が好きなんですが、こういう建物は、金沢で今どんな位置づけになっているのか、ちょっと気になりました。
徳田:街歩きで小津さんから伺った話では、所有者が建物の価値を十分に知らないまま壊してしまう、ないしは、相続の際に現金精算の方が都合も良いだろうと壊して売地にするケースが多いと聞きました。
やはり、まずは建物の価値を知ってもらうためにも、その建物を活用して商業活動をやっていくべきだと思うんですね。金沢の食文化と絡めたりした何かとか。インバウンドを狙ってやってみるという手もあるかも。
あと、「駐車場にするよりも収益がでますよ」という説得力を示すのは、ちょっと能力が要るところ。小津さんが古い町家を残すために取った事業スキームが発揮されているのが「八百萬本舗」の事例なわけですが、あのやり方は典型的な救い方ですよね。
小津:八百萬本舗は、もともと老舗の金物屋さんだったんです。廃業と相続に際してオーナーから相談をいただいて。「壊してしまってから相続した方が良いのか、そのまま残した方が良いのか。残した方が良いという意見が多いし、自分たちとしても愛着があるので出来れば残したい。けれども、これだけの規模がある町家となると、たとえ貸すとしても家賃も高くなるし、維持費もかかる。どうしたものか悩んでいる」と。
この町家の場合、オーナーの言う通り、その大きさがネックでした。そこで考えたアイデアは、この町家に小商いを集めてはどうかと。そしたら1店舗あたりの家賃は低く抑えられるし、各テナントの家賃を合計すれば結構な金額になる。そうやって回していけば、維持できるんじゃないかと思ったんです。
徳田:これはひとつのコンテンツでやるには家賃が高くなり過ぎるケースに使える。
それに、一気に売却して手放してしまったら、ボンとお金は入るけれど税金もドンと取られるから、実はすごくもったいないことになったりするわけです。だとすれば、ある程度の家賃でずっと回していける方が、長いスパンで見ればオーナーにとっても合理的なのでは。
徳田:金沢の中心的な繁華街である片町(かたまち)や、そこと直結して伸びるファッションストリートの竪町(たてまち)は僕の目には経済原理に翻弄された街として映りました。スピーディーに開発するとスピーディーに廃れる。どうやって速いものと遅いものを共存させながら、街として成長させていけるかが課題。その解が見つけられたら、すごいことができると思うんですが。
倉石:僕も片町・竪町は、今回歩いた中で一番“モヤモヤ”を感じたエリアでしたね。同時に、ちゃんと考えてみたいエリアでもあるなと。
長野市の善光寺の裏通りにある商店街では、今リノベーションされた物件が増えていて、若い人が徐々に戻ってきているんです。でも同時に、水面下では「商店街をなくして大きなショッピングモールをつくろう」という再開発の話も進んでいて。もっとも、そういった動きに対して真っ向からぶつかろうとか考えているわけではないのですが。僕だって「古いもの何でも大好き、バンザイ!」なワケではなく、新しいものが良いと思うこともあります。
ただ、再開発はどうしても“1回きり”というか、いつも0から新しいものにつくり変えちゃうので、ストーリーが断絶してしまう。それに対して空き家活用は、建物を持続的に新陳代謝させるというか、できたものを育てて、疲れたら退いて、次にまた新しいチャレンジをする人が来て。そういう循環があるところが面白いと思っています。
小津:片町の建物は、老朽化に加えて、店舗兼住宅であったりと使い方に制約があって、2階以上の部分は倉庫や物置になっているところも多い状況だと思います。竪町の方は一定の年数、家賃補助が市から出ている関係で、補助期間内での短期償却が望める業態が集まっていて、今はブライダル関係が多いですね。同じ時期に補助金を得て集まっているから、同じ時期に撤退する、そんなサイクルを繰り返している。そういう意味でタテマチストリートは奇妙な新陳代謝が起きている商店街と言えるかもしれません。
竪町に関してもう一点言うなら、同じ業態、特に物販店が多いために、滞在時間が短くなっていると思っています。最近ポツポツと飲食店も出てきたけど、もともとファッションストリートとしてつくられているから、設備自体も他の商売、例えば飲食店に切り替えるスペックがなかったり。最近ようやく大胆にコンバージョン(用途変更)する事例が出てきましたけど、そもそも街としての寛容性というか柔軟性がない状態をずっと続けてきている。それに、物販に関しては今はネットの時代になってきて、リアルショップの意味合いとか大きく変化しているじゃないですか。その変化に対応しきれないと業種的に厳しくなっていくんじゃないのかなと思います。
徳田:でも僕はむしろ逆の見方をしました。僕が住んでいる北九州市にある魚町(うおまち)商店街ではもはや飲食業でしか家賃を払えないという状況なのに「金沢のストリートでは、まだ物販店ができるんだ!」って驚きました。
街歩きツアーで見学した中に、タテマチストリートの1階に新たにできた宿がありましたよね。これには驚きました。2階・3階ならまだしも、路面店である1階を宿にしちゃうという事例はあまり見ないので。「あぁ、ものを売る時代から、“何か違うもの”を売る時代にシフトしているんだな」と強く感じましたね。
それと、街の寛容性が低いという意見には同感です。これまでは飲食なら飲食、物販なら物販で、バーンと大きくゾーニングする傾向にあったけれども、もしかしたらこれからは、物販とか飲食とかサービス業とか、いろんな業種がごちゃっと混在している状態がバランス良いのかも。
物販もいわゆる「数を売る物販」は郊外や駅前ビルに吸収されつつあるから、「物語性のある物販」をいかにつくれるかにかかってくると思う。例えば最近、東京の銀座で、すっごく小さな店舗で1種類の本しか売らない本屋が流行っていたりするんです。小さくて、家賃が比較的低くて、かつコンセプトでエッジが立っている。そういう工夫をしながら「モノではない何か」「モノに込められた何か」を生み提供できる場所―。そういうところに、これからの竪町を考えるヒントがあるように感じましたね。
(第3回に続きます)