news 2016.11.28
 
Rトピックス

安藤芳園堂ビル・新築プロジェクト!

小津誠一(金沢R不動産+studio KOZ./E.N.N.)、石倉彩子(E.N.N/studio KOZ.)
 

金沢で最も古い交差点のひとつ「野町広小路」。その一角に来春リニューアルオープンする「安藤芳園堂ビル」プロジェクトマネジメントをE.N.N.が担当した。現在入居テナントを募集しているので、併せて今回のコンセプトもご一読いただければ。

来春オープン予定の「安藤芳園堂ビル」。

交差点を照らす、行灯(あんどん)のような建築を。

元々は道路拡張によるセットバックに伴い、建物の部分解体や空室が目立つようになった既存ビル活用の相談だった。味わいのある建物外観、魅力あるロケーションなどから、当初はシェアオフィスやホテルとしてのリノベーション案を提案。しかし、資産整理の観点から「減築リノベーション」という選択肢もあったが、耐震性の問題なども加わり、建て替えという選択になった。

冒頭で書いたように、「野町広小路」という交差点は歴史が深く、交通の面でも要所だ。香林坊・片町の繁華街から進めば、犀川を渡ってすぐの場所。ここで右折すれば、金沢三茶屋街のひとつである「にし茶屋街」へ、左に曲がって進めば寺町寺院群が広がる。そしてこの交差点をひとつの境として、繁華街から住宅と商店が混ざり合う生活ゾーンへとトーンが移り変わる。さらには、交差点とにし茶屋外の間には、シャッター街と化した商店街もある。
歴史・文化・生活・経済。まさにこれらが「交差する地」に、新たにつくられる建築物はどうあるべきか。この建物の立地自体が、今回取り組むべきテーマそのものだった。

江戸時代後期からオーナー家が営む薬局が建っていた地なので、建て替え後も1階には薬局とカフェが入居することになり、上階部分をどうしていくかを検討することになった。通常なら、安定した家賃収入が得られるオフィスビルにしてしまう手もあっただろう。しかし、ここにあるべきは、特定の人に向けた「閉じられた空間」ではなく、人々が自由に行き交うコモンスペースを内包した、「半公共的空間」であるべきだと考えた。

そこで、レンタブル比(賃貸可能となる専有面積)を抑えてでも、共有スペースを確保。そして2階スペースは不特定多数の人が利用できる、飲食店が入居できるつくりにした。それも、レストランなどにも対応可能なスペックを備えている。3階はオフィスはもちろん、美容院なども入居できる。

建物のデザインについても、建築のかたち自体がシンボリックなランドマークになるよりも、格子状のフィルターのような外壁から透けて見える「人々の営み」自体が、この交差点のシンボルとなってほしいと考えた。

今回、最も幸運だったことは、オーナーである安藤さんが、街づくりに対して志のある方だったということ。代々地元の篤志家(とくしか)だったこともあり、地域への思い入れも並々ならぬものがあった。賃貸収入や設備投資という経済至上的な考え方よりも、建築の存在意義を大切に考え、サスティナブルな価値に比重を置く提案に快く理解を示していただいた。

金沢の街並みをヒントに、格子をデザインしたファサードから、賑わいの光りが漏れる様子が、街角に灯りをともす行灯のように見えるかもしれない。
このところ「ひがし茶屋街」に対して、日陰とされてきた「にし茶屋街」のある野町広小路エリア。この安藤芳園堂ビルが、この一角を、そしてエリア全体の未来を照らす存在になってくれることを願う。

(企画担当:小津)

開放感のある吹き抜けと、各店へのアプローチ。

歴史の手触りと、未来への開放感。

設計デザインを監修させていただく立場から、大切にしてきたのは土地と建物に脈々と受け継がれる歴史と、現代性のバランスです。ノスタルジーに偏るのではなく、未来に向けて開いてゆくような、開放感も同時に表現したいと考えました。

外壁のレンガや下屋の黒瓦、町家の屋根を思わせるような庇(ひさし)に、格子から連想を得たグリッド上の鉄格子のファサードを組み合わせました。懐かしさ・温かみと、未来的なシャープさ。それらが美しく均衡を保つ点を模索し、提案しました。

この建物の一番の特徴は、屋根がなく、空へと吹き抜ける、半屋内のような共有スペースです。鉄製のグリッド状のファサードによって、道路とは区切られ適度なプライベート感がありながらも、人も風も街の音も、自由に通り抜けていく公園のような空間をイメージしました。中央には安藤芳園堂の裏庭で育った樹木を、シンボルツリーとして植える予定です。

各テナントへは、吹き抜けに面した階段を上がって、街を見下ろせるテラスのような廊下を渡りアクセスできます。ガラス面が多いので、店内からも、まるで交差点の空中に佇んでいるような開放感が味わえると思います。

安藤芳園堂ビルの「顔」にあたる下屋には、大正時代に実際に使われていた棟飾りを配しました。野町広小路の一角で、江戸時代から街を見守り続けていた「安藤芳園堂」に、新たな命が吹き込まれますように。

(設計監修:石倉)

夜の外観イメージ。格子をデザインしたファサードから、賑わいの光りが漏れる様子が、街角に灯りをともす行灯のよう。

(左)大正時代に使用されていた「安藤芳園堂」の棟飾り。新しくなるビルで復活予定。(右)建て壊し前のビル。

■安藤芳園堂ビル
テナント募集ページはこちらをご覧ください。
野町広小路スクランブルの灯り/2F
野町広小路スクランブルの灯り/3F

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